「片割れ」~結び目が解(ほど)ける時~【Short story】

陰陽太極図は勾玉が向き合う形にも似ている
 

入社11年、いつしか職場の女性陣の中でも最年長になってしまった、お局と呼ばれる私。

そんな私が上司を筆頭とする人間関係の難しさに頭を抱え、ひどく消耗していた頃、
同じ部署に、めっちゃ強気に私に意見してくる新入社員の後輩(男)が登場した。
他の人にはとても人当たりソフトで紳士的なのに、なぜか私にだけは容赦なく突っかかってくる。
でも、だからこそ信頼できた相手だった。

「佐倉さん、あの物言いは良くないな。あなたがそんなんだから周りが委縮しちゃうんだ」
「分かってる……分かってるよ。確かに私の言い過ぎだった。だから今凹んでるんだよ……」

彼の名は健二。女性陣からは「健ちゃん」と呼ばれ、社内ではなかなかの人気ぶりだった。
しかし私はどうしてもそう呼ぶ気にはなれず、精一杯の親しみを込めて健二と呼び捨てにしていた。
 

「きっとね、健二は私をビシビシ鍛えてくれる役割なんだと思う。はっきり言ってムカつくけど(笑)
でもいいよ。ストレートだけど裏がないのを知ってるから」
「そりゃ、人に面と向かって意見されればムカつきますよ。でも、それでいいんですね?本当に」
「うん、いいよ。私はここでは最年長で、今まで誰もそういう風に言ってくれる人はいなかったから」

私達は、とても強く深い信頼で結ばれていたと思う。
戦友とか同志、なんて言葉がぴったりくるような、お互いにインスパイアされる間柄だった。
 

  ◆ ◇ ◆ ◇
 

健二と私は、ローテーションでスタッフが取る休憩時間が重なることが多かった。
大抵私の方が先に食事を取っていると、健二が少し遅れて休憩室に入ってきたものだ。
そして私の背後から、いきなり食事中の手元に向かって何かを放り投げる。
それはカウンター上にある来客用の飴玉だったり、コンビニで買ってきた個包装のお菓子だったりした。

「もう!急に投げないでよ、びっくりするから~」
「瞬間移動ですよ。僕は気を操れるんです」
冗談めかしてそんなことを言いながら、ストンと私の隣に座る。
そしてああでもない、こうでもないとお互いのやり方について軽く議論をするのが常だった。
 

ある日のこと、サンドイッチを口に運ぶ私の腕にはめていたブレスレットの糸が突然切れ、
組まれていた石が全部、バラバラと床に転がり落ちてしまった。

えーっ、ショック。夏に旅行した時に買ったお気に入りのブレスだったのに……。
半泣きで散らばった石を拾い集めていると、私の横でそれを手伝ってくれていた健二の指がふと止まった。
「これ……出雲の勾玉ですか?」
「うん、そう。へー、よくそんなこと知ってるじゃない」
 

古式に則って作られる正統な出雲地方の勾玉は、角のない、ふっくらと丸みを帯びた形をしている。
一般的には先端がシュッと尖った形の勾玉が多いけれど、それは元の形から派生した簡易版なのだそうだ。
そんなことを旅行先のお土産屋さんで教えてもらったのだが、それを健二が知っているとはちょっぴり驚いた。

「ああ、僕今年の夏に島根へ行ってきたんですよ。出雲大社とか。で、これ買ったんです」
そう言って健二がポケットから取り出したそれは、まぎれもない出雲型の勾玉ストラップだった。
 

「えーっ、私も今年の夏に出雲大社行ったんだよ!てかこれ同じ石じゃない、私のと」
「僕、格闘技ファンなんで陰陽のマークに似てる勾玉もけっこう好きなんですよ。
……それよりちょっと見てください、これ。さっき気付いたんですけど」

健二のストラップの先に付いていたのは、二つの勾玉が互いに向かい合う『合わせ勾玉』の形に組まれた赤と緑の石。
私もその一つと同じ石、深い赤が美しいめのうの勾玉が付いたブレスレットを自分用に選んでいたのだった。

しかし何より驚いたのは、健二が指差したストラップの結び目部分!
きつく結んでいたであろうその紐が、見事に緩んで解(ほど)けかかっていた。
私のブレスレットとほぼ同じタイミングで解(ほど)けた、二つの勾玉を結びつける紐……。
 

  ◆ ◇ ◆ ◇
 

その二日後、私は突然上司に呼ばれ、解雇を言い渡された。思わず我が耳を疑ってしまうほどの急展開ぶりだった。
社内恋愛禁止の就業規則において、「社内の風紀を乱すから」というのが解雇の理由らしかった。

もちろん私達に恋愛関係などないし、それは全くの濡れ衣だったが、私に弁明する余地はなかった。
おそらく私を快く思わない部署内の誰かの差し金だろうとは思ったが――ここは黙って去ることにした。
むしろ、健二の方には何も実害がないことが救いだった。
 

退社までの時間はあっという間だった。その日、出張中の健二の姿は当然そこにはなかった。
バタバタと残務処理を終え、ロッカールームで着古した制服をたたんでいた、その時。
コロン!とポケットから転がり落ちたものがあった。

「勾玉……」
緑色のめのうで作られた、見覚えのある勾玉。これはまさか健二の?どうしてこんなところに?
『瞬間移動ですよ。僕は気を操れるんです』
冗談めかしてニヤリと笑う、あの小憎らしい横顔が瞼の裏に浮かんだ。
 
 

このショートストーリーは、私の実体験を基に「まがたまアートコンテスト」応募作品として描いた創作物語です。
上記のコンテストは、全国で唯一「出雲型勾玉」を継承していることで知られる、株式会社めのやさんが主催しています。

 

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